涙目筑前速報++

詰まるところは明日を知る なだらかな日々につまずいて 向かうところはありもせず、未来の居場所だって未定―秋田ひろむ

夏の日、残像~2010読書編その参~

昨年読んだ本の感想集のその三。

ヘルマン・ヘッセ車輪の下

周囲の環境次第では、どんな才も時として潰れてしまうっていう世間への過度の期待に対する皮肉と、そういう外野の声も参考程度にはなるけど、自己決定は絶対自分でしなきゃダメだよっていう話。

お勉強だけの世界からドロップアウトして、色々な価値観に気付き出して、さあここから定番の人間らしさを回復していく流れかなと思いきや、そこで死んじゃう展開が興味深い。
「今更やる気になったって、もうおせーよ」っていう現実的なアレ。
何かゆうすけ的なものを感じちゃったね。

四畳半神話大系』は、今までのロクでもない自分を受け入れて、人生謳歌しようみたいな落とし方だけど、『車輪の下』はロクでもない事に気づいたら詰んでたって感じですな。
プライドや虚栄心みたいなものの哀れさっていうのが良く出てたと思う。
本人が傲慢ではなく、表向き気弱な奴だけになおさら。

エロになるかエロになるかーってなりそうで、実は弄ばれてただけという、何かおまえらが見たら憤死しそうな内容もあったりするので、あまりお勧めできません。


フランツ・カフカ『変身』

人は突然として、何らかのハンディやら、変なレッテルやら、世間っつうか社会的な空気の中での「バッドステータス」とされているものが自分についていると見なされた瞬間、負荷がかるよねと。
貴方は貴方よ!って言ってみても、やはり心のどこかに灰色な想いが潜んでおって、それが相互理解の妨げになっているという。

更にこの話の味噌だったのが、家族の為に身を粉にして頑張ってたグレーゴル君が蟲になって、家族から汚物扱いされて、最後には死んじゃうんですけどね。
死んだ直後に家族の雰囲気が好転するところ。

自分がどんなに頑張ってても、それは全体的な流れからしたら空回りだったんじゃないか的な意味合いも含まれてて、グレーゴル存在価値ないやん的な空気が漂ってたような気がして、ちょっといたたまれない。
力を抜いてたら働け働け言われるんだろうし、かと言って力入れてたら感謝こそされるけど、家族全体としては大した利益になっていない。
本格的に存在価値がない。頑張ってる穀潰し。

結局のところ、蟲という存在をどう捉え、じゃあそういう存在価値になっちゃったらどう生きたらええねんって話なんですけどね。
周囲の冷ややかな対応にしろ、家族の痛々しい対応にしろ、自分の卑屈さが増すにしろ、どうすりゃいいのよっていう苦悩という。
周囲から逃げても、好奇・否定の目からは逃れられないし、かと言って家族の近くにいたら被害が甚大になってしまうし。
それでも人生は死ぬまで続いてしまうので、その流れがまた生殺しな感じがして残酷極まりないというか。

こういうときはもう前見て一歩踏み出して、ある意味自己肯定的に、孤独に歩め的な感じで生きていくしかないんだけど、いや本当に孤独に歩まなきゃいけないのかもしれないけど。
本当にブレーキ踏めない状態ってのはこういうときかもしれないと思いました。
ブレーキ踏めなくなった人は、「もうブレーキなんざ踏めねえぞ!ガハハ」という自虐すら許されないのかもしれないという。


伊坂幸太郎『死神の精度』

死神が死の対象の相手と直接接触して、「可」か「見送り」の評価を出して、それによって死ぬ死なないが決まるって言う話なんですけどね。
基本的に死神たちは他人事で、「まあ可だろうな」みたいなテンションなんですね。

主人公の死神については、人間の死にあまり興味ないだけに、個人に執着したりしないで、淡々と観察してるって感じ。
他の死神たちは結構アバウトに「可」にしちゃう中、主人公は仕事熱心に人間観察をした上で評価するわけで。
ただ、死ぬ前には相手を幸せにしてあげて死なせてあげたい等のサービス精神旺盛な死神もいたりして、死神にも色々側面があるのよ的な雰囲気が出てて面白かった。

個人的には、最初の話と、恋愛の話と、最後の老女の話の絡みが伊坂らしい絡ませかたというか。
一方ではヤクザ・チンピラ回必要ないやんって印象でした。

一番おもろいなと感じたのは、「吹雪に死神」という回で、吹雪の洋館に閉じ込められちゃって殺人事件が起きるっていうありがちな話なんですけどね。
オチが良い意味でガクッと来たという点と、それに潜む人間模様が面白かった。

つうかこれNHK-FMの「青春アドベンチャー」でやってたんですね。
青春アドベンチャーは中学・高校時代によく聴いておったラジオ番組で好きなんすよね。
嫁も昔よく聴いておったらしく、数少ない共通点であったりします。
ちなみに僕が好きだった話は「ザ・ワンダーボーイ」という作品です。
何かいきなり飛べるようになったけど、オナニー覚えちゃったら転落したみたいな話です。
今思えば、転落っぷりが足が劣化したマイケル・オーウェンみたいです。ワンダーボーイだけに。


次回に続く。